「これからの水産業界に求められる新たな仕組み・コミュニティを作りたい」24歳起業家が挑む水産業の未来とは

「フードテック」「エドテック」など、旧態依然とした業界とITの掛け合わせによる新しい産業のかたちが次々と誕生している中、水産業でも「マリンテック」と呼ぶべき、変革が起きつつあることをご存知だろうか。

平均年齢は56.7歳。かつて200万人が従事していた我が国の漁業就業者も現在では約16万人まで落ち込み、後継者不足に頭を悩ませている。平均年収は200万円。決して高水準の仕事とは言えない。世界を巻き込んだ寿司ブームが広がりを見せる一方、「日本の水産業界には暗雲が立ち込めている」と言われる理由はきっとそんなところにあるのだろう。

しかし、悲観することはない。政府は水産業を成長産業と位置づけ、2019年に漁業法を改正。企業の新規参入による労働力の確保やITを用いた新たなイノベーションを期待している。

今回お話をうかがったのは、株式会社ベンナーズの代表の井口氏。ITを用いた新たな仕組みで水産業の現状に真っ向から立ち向かう、業界注目の若手起業家だ。

井口 剛志(いのくち つよし)
1995年5月26日生まれ。2011年4月大濠高校入学後、翌年同校中退し、John Bapst Memorial High Schoolに編入留学。卒業後ボストン大学経営学部に進学。在学中にベンナーズ創業。19年からFukuoka Growth Next(FGN)へ移転。20年には福岡市ステップアップ助成事業優秀賞受賞、農林水産省主宰“INACOME”ビジネスコンテスト優秀賞受賞。

■構造的な売り手/買い手の情報格差

井口:もともと私の祖父母・父が水産会社を経営していたこともあり、水産業については人並み以上には知っているつもりでした。そんな中、大学の授業でなんとなく受講したプラットフォーム戦略の講義で、「時価総額トップの企業のほとんどがプラットフォームビジネスだ。そしてプラットフォームビジネスは、複数のステイクホルダーの情報交換が必要とされた上で取引が成立する」と聞き、「プラットフォームこそ今後の水産業に必要とされ、産地の現状を変えられる一手になる!」と衝撃が走りました。

産地の事業者から小売までは諸説ありますが、平均で7社以上もの事業者が介在しているともいわれています。最終的に自分たちの魚がどこの誰が買っているのかは分からないような情報格差があるのが現状です。いてもたってもいられず、周囲の反対を押し切り、総合商社の内定を辞退。卒業と同時に株式会社ベンナーズを立ち上げました。

井口:どんなに水産物需要が上がり流通が発達したとしても、水揚げをする産地の事業者がいなくなったら水産業は成り立ちません。ですから当社では産地に必要とされる、つまり産地の収益を上げられる仕組みを目指すことにしました。

ですが水産業と一口に言っても、産地の漁業事業者、卸売事業、消費地の卸事業者・小売業者など、さまざまなプレイヤーが存在しており、どこから着手すべきなのかと悩みました。

ご存知の方も少なくないと思いますが、小売店で販売されている価格は、漁師が市場に買い取られる金額の3~6倍、消費者に届くまでの過程で7社程度の事業者が関わっていると言われています。ほとんどの漁師が、自分たちが釣った魚がどこの誰に、どのくらいの金額で売られているかを知らないのです。また、日本で消費される水産物の7割が小売で消費されています。

そこでまずは仲介業者を介さずに産地で採れた鮮魚を直接小売に販売できないかと、小売各社へのヒアリングを始めました。

■ニーズはあれど潰れていく、水産業者の不幸

井口:これが全然、相手にされない(笑)。 スーパーで必要とされているのは、そのままの鮮魚よりは、圧倒的に切り身やフライなど、手を加えられた加工品だったのです。

井口:調べてみると、日本の加工品会社は全国で約8,500社もありました。しかし平均稼働率はなんと40%程度。スーパーなどの小売店では午前中に納品が求められるので午後が空いてしまう。また漁獲量が見込めないときはそもそも仕事がない。加工業社のほとんどが、売上の多くを一部の大手に依存しており、その一部の大手からコストダウンを言い渡されると赤字に転落。しかし自ら新たに販路を開拓するのは難しく、赤字でも請けざるを得ないので、銀行から融資をストップされ、最終的に倒産してしまうという現実があります。15年前に12,000社程あった水産加工会社は今では8,500社程にまで減少しました。

また他産業でも当てはまると思いますが、水産業でも買い手が強い。普通漁獲量が減れば魚価は上がるじゃないですか。しかし実際には競りが本来の機能を果たされずに魚価が上がらないということも起こっているのです。

加工業者を含め、産地から小売業者までに届く流通を最適化し、買い手側のマインドも根本的に変えなくてはならない…。

知れば知るほど、水産業が抱える課題感というか、さまざまな問題が複雑に絡み合っている現状が浮き彫りになってきました。これは一筋縄ではいかない。原点回帰しなくてはならないな、と思いましたね。産地の収益を上げるところから始めようと。

■見えてきたオセロの角。「最適化」と「最大化」

井口:産地の収入を上げることを目指す際に、大きくは「そもそもの魚価を上げること」「購入される量を増やすこと」の2つのパターンがあります。

前者では、情報の格差によってちぐはぐになっている水揚げ産地・加工業者、小売の商流を最適化するプラットフォーム作りに着手しています。それが、当社がリリースしている「MARINITY(マリニティー)」です。

MARINITYは日々の水揚げ情報などのデータをリアルタイムに更新し、その情報をもとにバイヤーが直接買い付けを行うことができる仕組みです。店舗のニーズを満たす価格帯や仕入れたい魚の種類・加工品、流通経路を自由に選定できるため、中間マージンの削減につながり、適正価格での売買が可能に。大量に加工品や鮮魚を必要とする大手小売・外食業者側の開拓に力を入れており、これまで素通りされていた加工業者や産地にも仕事が回り、収益を上げられるようになることを目指しています。もちろん輸送面などにも着手する必要がありますが、鉄道貨物などの積極活用が出来ないかなど、さまざまな企業様と模索中です。

後者の方ではかなりチャレンジングではありますが、未利用魚の推進です。

井口:日本近海で採れる魚の種類は3,000種類と言われていますが、1,500種類が食用に適している種類とされています。そのうち私たちが普段口にする種類はわずか20種類です。

本当は食用として活用できる魚も、獲れたとしても売り物にならないということで廃棄していることも多くあります。
未利用魚を推進することができれば、海の生態系を壊しかねない今のアンバランスな漁獲を逓減でき、かつ産地は販売できる魚が増えることで収益化につながります。

もちろんいくら食べられるといっても見知らぬ魚を口にすることは抵抗があるかもしれません。当社では、実験的ではありますが、福岡県立水産高等学校と宗像漁協組合と連携して、高校生と未利用魚を使った商品開発を実施中です。

■最終的なゴールは日本最大のオンライン市場

井口:産地の収益が最も収益を上げられる究極のカタチは、極端なことを言えば、「獲れた魚を全て高値で買い取る」ことだと考えています。

それには、これまで述べたような2つのアプローチで、買い手が必要な魚種・加工形態・量・納期を全て叶えられるような産地・加工業者・物流を最適化するプラットフォームを実現します。そして未利用魚の推進によって流通される魚種を最大化していくこと。

端的に言えば、「地方市場」「中央市場」を全て集約した日本中央市場の実現を目指します。

■異業界の人ほど、水産業界を活性化するチャレンジに飛び込んで欲しい

井口:「水産業で働く」ということを考えたときに、「魚に詳しくなきゃダメだ」などハードルが高そうなイメージを持たれることがほとんどだと思います。私自身、起業した当社は恥ずかしい話ですが、アジとサバの違いの見分けがつかないようなレベルでした(笑)

それでも「教えて下さい」という姿勢で足を運んでいるうちに魚に詳しくなるし、何より水産業に関わる方はそれぞれ熱い想いとあたたかい方が多いです。想いを共にできる方々と新しい未来を作っていけることが何よりのやりがいです。

異業種の方は特に、違和感やもっとこうしたらいいのにと次から次へとアイディアが思いつくでしょう。少しでも興味をもっていただけたらまずは一歩だけでも踏み込んでみていただけたら嬉しいです。培ってきた経験やスキルが必要とされるフィールドが絶対にあります。ベンナーズでは幅広いフィールドでメンバーを募集していますので、気軽にご連絡下さい。

株式会社ベンナーズ

代 表:井口 剛志
本 社:福岡県福岡市中央区大名2-6-11-203号室
東京拠点:東京都中央区明石町5-4-302号室
設 立:2018年4月
資本金:4,500万円
売上高:(19/10見込)2,500万円

 

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ABOUTこの記事をかいた人

石川昇

沖縄県出身。これまで10県以上で生活、前職の転勤を機に福岡へIターン。 現在は独立し、福岡と東京の2拠点生活に挑戦中。 福岡に住んで感動したことは、「移動のしやすさ」「スーパーの食材のおいしさ」「ゴマサバ」